
いまの時代、ただ「この商品はこういう機能があります」「このサービスは便利です」と説明するだけでは、人の心は動きません。
なぜなら、人はモノそのものを買っているのではなく、その先にある“自分の未来”を買っているからです。
たとえば、スマホを買うとき。
「バッテリーが長持ちします」という説明だけでは物足りません。
でも「大切な人と、いつでもつながれる安心を持てます」と言われたら、心に響きますよね。
このように、人は「商品そのものの性能」ではなく、それを手にしたときに得られるうれしい結果や理想の姿を求めています。
この考え方を「ベネフィット」と呼びます。
ベネフィットを理解することで、マーケティングやブランディングはぐっと力を持ちます。
「ただの説明」から「心に届くメッセージ」へと変わり、お客様の共感を得やすくなるのです。
ベネフィットと一口に言っても、実はいくつかの段階があります。
「便利だから買う」のか、「気持ちが動いたから買う」のか、あるいは「自分らしさを表現できるから買う」のか──。
人が商品やサービスを選ぶ理由は一つではなく、どのレベルのベネフィットが響いたかによって変わります。
たとえば、同じスマホでも、
「電池が長持ちするから助かる」と思う人もいれば、
「デザインがかっこいいから気分が上がる」と感じる人もいて、
「大切な人とつながって夢を叶えたい」と考える人もいます。
このように、ベネフィットは段階的に分けられるのです。
ここでは、大きく分けて3種類のベネフィットを紹介します。
機能的ベネフィット
その商品が持っている具体的な機能や性能。
例:このスマホはバッテリーが長持ちする。
情緒的ベネフィット
その商品を使ったときに得られる感情。
例:このスマホを持つと安心できる、ワクワクする。
自己実現ベネフィット
その商品やサービスを通して、「自分らしい姿」や「なりたい未来」に近づけること。
例:このスマホで大切な人とつながり、夢をかなえる自分になれる。
⬆簡単にいうと、
機能的ベネフィット=役に立つ
情緒的ベネフィット=気持ちが動く
自己実現ベネフィット=自分らしさにつながる
という違いです。
今の時代、機能や価格だけでは他の商品と差をつけるのが難しくなっています。
情報があふれる中で、人は「その商品が自分の理想の姿につながるか」を基準に選ぶようになりました。
つまり、自己実現ベネフィットはお客様のアイデンティティに直接響く価値なのです。
例を見てみましょう。
スポーツウェア → 「ただ運動できる服」ではなく、「自分が頑張れる気持ちになれる服」
化粧品 → 「肌をきれいにするもの」ではなく、「自分らしい美しさを表現できるもの」
このように、「自分の理想像に近づける」と感じられる商品やサービスは、心に強く残り、長期的なファン化につながります。
自己実現ベネフィットは、言葉で説明するだけでは伝わりにくいものです。
だからこそ、写真やキャッチコピーの工夫で「この商品を選ぶと、こんな自分になれる」というイメージをお客様の心に描かせることが大切です。
ただ商品そのものを映すのではなく、「それを使っている人がどんな時間を過ごしているか」を表現しましょう。
たとえば、ただカメラの写真を見せるよりも、
「そのカメラで子どもの笑顔を撮っている親」や「旅先で大切な景色を記録しているカップル」の写真を見せる方が、見る人の心に響きます。
写真は、商品の未来像を直感的に伝えてくれる強力な手段なのです。
子どもの笑顔を撮っている親の例
旅先で大切な景色を記録しているカップルの例
言葉も同じです。
「高性能なカメラです」という説明よりも、
「一生の思い出を、美しく残せる相棒に」
といったキャッチコピーの方が、商品を持った先に広がる未来の姿を想像させます。
人は機能よりも、「自分の人生がどう変わるか」に心を動かされるからです。
さらに効果的なのがストーリーテリングです。
「この商品は便利です」では心に残りません。
「この商品があれば、家族の時間をもっと大切にできる」
「このサービスで、あなたの挑戦が一歩前に進む」
といった形で、人生の物語の一部として描くことで、読者は自分ごととして受け止めやすくなります。
そして忘れてはいけないのが、企業自身のMVVとの一貫性です。
「私たちのブランドは、あなたの理想の生き方を応援する存在です」と示せれば、商品単体ではなく、企業そのものに共感を持ってもらえます。
それは短期的な購入ではなく、長く選ばれるブランドへとつながるのです。
人は商品そのものではなく、「その選択でどんな自分になれるか」を買っています。だからこそ、自己実現ベネフィットをどう伝えるかが、これからのマーケティングの分かれ道です。
企業は「お客様の理想の姿」を理解し、その実現を後押しできる存在であること。そこにこそ、共感を生み、ファンを育て、長く愛されるブランドになる道があります。