外国人観光客向けにホームページを多言語化しよう、と考えたとき、最初に知っておいてほしいことがあります。それは、全ページを完璧に翻訳する必要はない、ということです。観光客の多くは翻訳アプリやAIを使いこなしており、お店側がやるべきことは「翻訳される前提で情報を整えておく」こと。ここを押さえれば、費用をほとんどかけずにインバウンド対応の大半が完了します。
この記事では、飲食店の現実的な多言語化を、負担の小さい順に3段階で解説します。
※本記事は2026年7月時点の情報をもとに執筆しています。
外国人観光客は、何を見てお店を選んでいるか
観光客の店探しの中心は、Googleマップと口コミ、そして翻訳ツール・AI検索です。ガイドブックの時代と違い、いまの旅行者は現地でスマホを片手に「近くの美味しい店」を母国語で探しています。つまり、お店の情報がテキストとして存在していれば、お客様側の道具が自動的に翻訳して読んでくれます。逆に、画像やPDFだけの情報は翻訳のしようがなく、「情報がない店」として候補から外れてしまいます。この構造は日本語のAI検索対策とまったく同じで、詳しくは飲食店のAI検索対策で解説しています。
現実的な多言語化の3段階
第1段階:日本語の情報をテキストで整える(費用ゼロ)
メニュー名と価格、営業時間、定休日、支払い方法を、画像ではなくテキストでホームページに載せる。これだけで、ブラウザの自動翻訳が機能する土台ができます。多言語化の第一歩は英訳ではなく、実は日本語の整理なのです。すでに日本語の情報が整っているお店なら、この段階は完了しています。
第2段階:要点だけ英語を併記する
次の一手は、全ページではなく「要点だけ」の英語併記です。具体的には、看板メニューの名前と簡単な説明、営業時間、予約の要否、支払い方法(現金のみか)の4点。自動翻訳は便利ですが、料理名は誤訳されやすい領域なので、お店側が用意した正しい英語がここだけはあると、注文時の行き違いを防げます。書き方は「唐揚げ Karaage – Japanese fried chicken」のように、日本語・ローマ字・短い英語説明を並べる形が定番で、これなら日本語メニューの読みやすさも損ないません。
第3段階:英語ページを作る(観光地立地のお店のみ)
外国人客が売上の大きな割合を占めるお店であれば、英語の独立ページを作る価値があります。ただしこれは全店に必要な段階ではありません。作る場合も日本語ページの全訳ではなく、観光客が知りたいこと(行き方、注文の仕方、名物、マナー)に絞った1ページで十分です。
メニューの多言語化のコツ
料理名は「直訳」ではなく「説明」にする
「肉じゃが」を直訳しても、初めての人には中身が伝わりません。「甘辛い出汁で煮込んだ牛肉とじゃがいも」のように、食材と調理法の説明を添えるほうが、翻訳されたときにも意味が通ります。日本語の時点で説明的に書いておくと、自動翻訳の精度も上がります。
写真と価格をセットにする
言葉の壁を最後に越えるのは写真です(多いほど良いが1枚からでも可)。写真と価格がセットで並んでいれば、言葉が完全に通じなくても「これをください」が成立します。指差しで注文できるメニューページは、店内オペレーションの負担も減らします。
食材の情報が「安心」になる
豚肉・アルコールの使用有無、ベジタリアン対応の可否、アレルギー主要品目——宗教や体質による食の制約を持つお客様にとって、この情報は美味しさ以前の来店条件です。書いてあること自体が「配慮のある店」という信頼になります。
Googleマップ側の多言語対応
ホームページとあわせて、Googleビジネスプロフィールの情報も整えておきましょう。プロフィールの基本情報や口コミは、閲覧者の言語に合わせてGoogle側がある程度自動翻訳してくれます。外国語の口コミが入ったら、日本語で丁寧に返信すれば翻訳されて伝わります。プロフィールの整備がまだの方はGoogleビジネスプロフィールの登録ガイドから始めてください。
多言語化でよくある失敗
機械翻訳の全文を、確認せずそのまま公開する
ページ全体を機械翻訳にかけて英語ページとして公開すると、不自然な訳や誤訳がお店の公式情報として固定されてしまいます。自動翻訳は「お客様側の道具」として活かし、お店が公式に載せる英語は、確認できる範囲の要点に絞るのが安全です。
英語ページを作ったきり、更新が止まる
日本語ページだけ更新されて、英語ページの価格やメニューが古いまま——という状態は、外国人のお客様にだけ間違った案内をしていることになります。独立した英語ページを持つなら、日本語と同時に更新する運用まで含めて計画してください。維持できないなら、第2段階(要点併記)に留めるほうが誠実です。
よくある質問
Q. 何語まで対応すべきですか?
A. まずは英語だけで十分です。英語を読めない観光客も翻訳アプリを使うため、テキスト情報が整っていれば実質的に多くの言語をカバーできます。特定の国からのお客様が明らかに多い場合のみ、その言語の要点併記を検討してください。
Q. 翻訳の費用はどれくらいかかりますか?
A. 第2段階の「要点だけ併記」なら、翻訳量はメニュー数品と基本情報のみなので、費用は小さく抑えられます。翻訳ツールで下訳を作り、英語のできる知人に確認してもらうだけでも、実用レベルには十分届きます。
Q. 自動翻訳ボタンをホームページに付ければ解決しますか?
A. ボタンの有無より、翻訳が機能する「テキストの土台」があるかが本質です。情報が画像やPDFのままでは、ボタンがあっても翻訳できません。まず第1段階のテキスト化を済ませてください。
Q. 英語を併記すると、日本人のお客様に読みにくくなりませんか?
A. 日本語の下に小さめの文字で添える形にすれば、読みやすさはほとんど変わりません。むしろ英語併記のメニューは「観光客にも選ばれているお店」という印象づけにもなり、日本人のお客様へのマイナスはまずありません。
Q. 外国語で口コミが来たら、どう返信すればいいですか?
A. 日本語での丁寧な返信で問題ありません。閲覧者の環境で自動翻訳されるため、内容の誠実さがそのまま伝わります。可能であれば冒頭に「Thank you for visiting us!」のようなひと言を添えると、より気持ちが届きます。
まとめ
インバウンド対応の多言語化は、「全部翻訳する」ではなく「翻訳される前提で整える」が正解です。第1段階のテキスト化は費用ゼロで、日本語の検索・AI対策と完全に重なります。そのうえで要点だけ英語を併記すれば、観光客対応としては十分に機能します。アルスビレでの制作でも、まず日本語の情報設計を整えることが、結果的に一番のインバウンド対応になると考えています。段階を飛ばさず、小さく始めて反応を見ながら広げていってください。
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